映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

勝利依存症の女神

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女神の見えざる手

映画情報

こんな話(作品概要)

政治家や世論を動かし、マスコミをもコントロールするプロフェッショナル集団。それがロビイスト。彼らはクライアントに利益をもたらすために、あらゆる活動をします。ワシントンD.C.には、通称「Kストリート」と呼ばれる、ロビイストの会社が立ち並ぶエリアがあるそうです。

邦題の、“見えざる手”とは、あくまでクライアントのために、様々な戦略を巡らせ暗躍する(時に表舞台にも登場する)ロビイストの働きを指しており、“女神”とは、その業界において圧倒的勝率を誇るロビイスト、ヒロインのエリザベス・スローンのことに他なりません。

業界内のみならず、政治家からも畏れられるほど有能なロビイストであるスローンは、銃の規制(販売時の身分証確認を義務づける)法案の成立を阻止したいクライアントから指名されます。クライアントは共和党の大物議員であり、ライフル協会などの大きな支持母体が背後にあります。

しかし、法案の成立を是とするスローンは依頼を断り、それによって所属する最大手のロビイスト会社からも、これほど大きな依頼を引き受けないなら「お前はクビだ」とまで言われてしまいます。

その後、銃規制法案の成立に尽力しているシュミットからスカウトされたスローンは、何人もの部下を引き連れて移籍し、銃規制阻止派に立つ元いた大手ロビイスト会社と対決することに。

スローンは、時にモラルに抵触するような戦略を駆使し、圧倒的劣勢から見事な逆転劇を幾度も見せます。しかし不測の事態や、阻止派によるスキャンダラスな個人攻撃に襲われ、法案の成立も彼女自身も致命的なダメージを受けることになってしまうのですが。

わたくし的見解

ロビイストという、あまり馴染みのない職業を取り上げていることもあり、少し地味な印象のある作品ですが、大変に面白い社会派サスペンスです。

社会派サスペンスと聞くと、暗く重厚で静かな展開を辛抱強く見せられるイメージもありますが、この作品はテンポもよく展開もスリリングで、エンターテインメントとして優れた映画です。法廷ものやウォールストリートものなどの名作群に、十分に名を連ねることができるでしょう。

本作の中で戦っているのが、銃規制法案の成立を目指す小さなロビイスト会社(クライアントがNPO法人で資金も少なく、必然的に小さな会社にしか頼れない)と、廃案を目指す最大手のロビイスト会社(ライフル協会をはじめとする非常に大きな権力と資金力を持つクライアントなので当然、最も勝率の高い最大手の会社に依頼している)。

ヒロインのエリザベス・スローンが、最初に銃規制法案の廃案を依頼された際に明言していますが「廃案に持ち込むのは簡単」なのが、アメリカの現状です。

ドキュメンタリー映画ボウリング・フォー・コロンバイン」や、同じ銃乱射事件に着想を得たフィクション映画「エレファント」などの印象が強かったため、コロンバイン高校の銃乱射事件は、アメリカにおいてもセンセーショナルな事件なのだと、私はある時まで思い込んでいました。

日本ならば、そのような事件一つで銃の規制に向けて、政府も国民も大きく動くと思われますが、アメリカでは州によって法律が違うとは言え、大きく銃規制が進まずに事件以降の20年近くが過ぎています。

コロンバイン高校の事件は、実はそれほどセンセーショナルでは無かったのです。現在のアメリカで年間に発生している銃乱射事件は300件(←うろ覚えの数字です)を超えており、日常茶飯事と言っても過言ではありません。

件数に比例して被害者は増え続け、被害者の家族まで含めれば、とても無視できない数になるはずですが、このような悲劇の度に銃の規制を叫ぶ者と、それに対抗する勢力が声を上げます。

対抗する勢力の言い分が、これまた日本人にはまったくピンとこない「このような悲劇を生み出す、銃の暴力に対抗できるのは銃の所持しかない」というものです。

このあたりの丁々発止のやり取りは、映画の見所の一つです。

銃を手放したくない人たちにとって「アメリカという国は銃を持つ権利によって成り立っている」という信条、思想?信念?に支えられています。建国の父を支えたものが銃であり、アメリカ国民は銃を保持する権利が憲法で保障されている。

スローンは、銃規制を支持する立場ですから、憲法を作った頃とは時代が違うなどの指摘をメディアで放ちます。実はこの切り返しはアメリカではあまり効果的ではなく、どちらかと言えば、するべきではない反論のようですが、スローンはその後の展開のために、あえてこの下手を打って見せる。

このようなツイスト(逆転)の応酬は、ぜひ本編で楽しんで頂きたいのですが、日本人にとっても思うところの多い論争と言えないでしょうか。銃規制という、あまり私たちには縁のない極端なところを取り上げられることで、ちょっと冷静に考えられる部分があります。

憲法にあるからというだけで、本当に今、無条件に正しいと信じてよいのか?とか。国民を守るための銃(武力)によって国民が傷つけられることがあるなら、一体どうすればいいのか?とか。

さて、作品の屋台骨としてヒロインの人物像がよくできています。仕事の鬼で、超絶合理主義。ヒューマニズムに溺れず、必要であれば躊躇なく人の弱点を利用する。その態度は、仲間に対しても同じです。すべては勝利のため。

ハードな日々を乗りきるために睡眠薬ではなく、眠らないための薬を常用している。薬物依存と言うよりは、勝つまで眠らない、勝利依存症なのです。

他の物語のヒロインのように、プライベートを犠牲にしていることを思い悩むふしはありません。潔いほどの冷血漢の彼女が、自分の築き上げたキャリアを賭けて、なぜ極めて勝算の低い戦いに身を投じたのか。

スローンが周囲に自分の生い立ちやバックボーンを明かさないように、映画も彼女のその部分を語りはしない。語られないことで、とても好感度の低いヒロインなのに興味が湧き、様々な想像を膨らませることができます。

勝利のためにモラルの一線を超えてしまう、自他共に認める最低の人間なのに、銃規制実現のために、ここまで労力を惜しまないのは何故なのか。劇中で彼女が語るように、「『どんな異常者でも、店やネットで銃が買える』世の中を容認するべきではない」という単純な信条によるものなのか。

その意志を確固たるものにするようなストーリー(悲劇)が、本当はスローンの人生にあったのかも知れない。あるいは、ただ周囲から絶対に勝てないと言われている戦いに「勝利すること」だけが、彼女のモチベーションのすべてだったのかも知れない。

スローンを「いい人」として描かないことで、人間が複雑な生き物であるリアリティーが生まれているように思いました。フィクションであることが残念に思えるほど、かっこいいダークヒロインです。

ところで、アメリカでの銃乱射事件の増加は、銃大好きな共和党のトランプさんが大統領に当選した影響は否めないと、個人的に思っています。アメリカと銃社会への「?(はてな)」や、憲法改正というものをよそ事として流せない現在、様々な要素が旬に感じられる内容でした。

ちょっと取っ付きにくく小難しいような感じもしますが、弱小チームがメジャーリーガー引き抜いて、ジャイアントキリングを目指す、みたいなシンプルで熱い面白さもありますので、本当にお勧めの作品です。