映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

悪人のいない、よくできた落語みたいなのだ

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ラブ・アゲイン

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

キャルは40代の冴えない男だが誠実で、良き夫であり良き父でもある。ある晩、夫婦水入らずでの外食の最中に、25年連れ添った妻エミリーから突然「離婚したい」と告白される。そして、会社の同僚デイヴィッド・リンハーゲンと浮気をしたことも。

10代で結婚し、妻一筋で生きてきたキャルはショックのあまり、反論や抵抗をまったく出来ずに離婚を受け入れ、家を出てしまう。

独りになったキャルは、地元のバーでヤケ酒を呑みながら、相手構わずに妻に浮気され捨てられた身の上話を繰り返していた。それを見かねた、バーの常連客でプレイボーイのジェイコブは、キャルを垢抜けたナイスミドルに変身させ、女性の口説き方を伝授する。

キャルは初めのうちは少しも乗り気ではなかったが、ほぼヤケクソでジェイコブの言う事を聞くうちに、バーから女性をお持ち帰り出来るほどになる。キャルとジェイコブの間には、いつの間にか不思議な師弟関係と友情が生まれていたのだが。

わたくし的見解

主演のスティーブ・カレルは、もともとTVで人気を博したコメディアンで、映画でもコメディ俳優として活躍しています。でも顔だけ見ていると、あまりコメディアンには見えないですよね。

ミスター七・三とあだ名を付けたくなるような、とても真面目に見える顔立ちだし、何気にハンサム。正直、ジョージ・クルーニーあたりのスタアと写真を並べても、誰も違和感を覚えないのではないでしょうか。

だから、どんな悪ふざけやバカをされるより、ハンサムが過ぎるところが、一番スティーブ・カレルの面白おかしいところだと思うのです。

本作もコメディではあるのですが、スティーブ・カレルはほとんどバカをしません。時々、我慢しきれずに悪ふざけしかけても、すぐにやめます。一見まともなのに何か含みのある「佇まいの可笑しみ」という彼の持ち味が、よく活かされた作品です。

主人公のキャルは、冴えない見た目の中年男性ですが、人から疎ましがられるようなキモ男ではありません。

ただセクシーとは程遠く、その年齢の多くの既婚者がそうであるように、マイホームパパらしい洒落っ気のない服装と髪型。幸せな父親らしく、会話は子供が起こす日常のささやかな事件や、深入りしない仕事の話。

子供たちもパパの帰りを待ちわびる、素晴らしい家庭人に他ならないのです。

キャルの場合「真面目な男はつまらなく、ちょっとワルな感じの方が女性にはモテる」というような定説に振り回される年齢でもありませんが、青天の霹靂、離婚のせいで、年下のジェイコブによるモテ男レクチャーを受けることになります。

おっさんながらも「マイ・フェア・レディ」よろしく、まず外見から変えるため、ショッピングモールで改造計画が始まります。その時、ジェイコブから指摘される「冴えない男あるある」が楽しい。

サイズの合わない服を着るな。スティーブ・ジョブズでもないのに、ニューバランスのスニーカーばかり履くな。それから買い物のあいだ、しばらくスルーされていましたが、最後に「ビリビリ(マジックテープ)の財布はやめろ」。

ところが、冴えないあるあるコンプリートのキャスに、ずっと恋している女性も登場する。この映画の、ただただ真面目な良い人(男性)に惹かれる女性もいるのだ、という視点に私は好感を持ちました。

物語全体としては、ラブコメ(ロマンチック・コメディ)と言うよりも、ハートウォーミングな群像劇の印象が強いです。

それでも、あえてラブコメを銘打っているのは、多くの登場人物が、恋心や愛情の矢をそれぞれ一方的に放っているから。ちぐはぐだった恋の(愛の)矛先は、最終的に「恋のから騒ぎ」さながら見事に収束します。

それぞれの恋や愛(片思い)に、歯が浮くような甘ったるさも、狂おしいほどの切なさもないところが個人的にとても好み。素直に、登場人物を祝福したり応援したり出来ました。

なんとも、ほっこりした気分になれるので、ふだんはラブコメなど観ない人も、落語の人情話のような感覚で楽しんでもらいたい作品です。

ちょっと余談ですが、「ラ・ラ・ランド」の二人がすでに、ここで共演していました。「ラ・ラ・ランド」でも本作でも、ライアン・ゴズリングエマ・ストーンの仲睦まじい様子は、実に微笑ましいのです。

エマ・ストーンに対する、ただの私のエコ贔屓なのかも知れませんが、彼女はイチャイチャするのがとても上手なんですね。恋人同士が「一緒に居ること」の楽しさを見せるのが、いつも巧い。

ライアン・ゴズリングエマ・ストーンもそれぞれ、プライベートではすでにパートナーがあるようですが、往年の三浦友和山口百恵のように、いずれ結婚してくれないだろうか、と思ってしまうほど相性の良さを感じます。

二人の相性の良さは、自他共に認めているから共演も重なるのだろうし、プライベートはさておき、トム・ハンクスメグ・ライアンみたいな、作品上のベストカップルに今後なってくれると嬉しい。

鑑賞を終えると、コメディとは思えない豪華なキャスティングにも納得の、構成のよくできた作品でもあります。

サスペンス要素はまったくないのに、序盤からうっすら気になっていたことが「なるほど、ここに繋がっていたのね」とスッキリするツイスト(どんでん返し、という程でもないのだけれどチョットかした種明かし)が心地よかった。

年末年始に、お家でゆっくり、ほっこり楽しめる作品としてお薦めします。