映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

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インヒアレント・ヴァイス

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

1970年初め、マリファナ中毒の私立探偵ドクは、かつての恋人シャスタから、消えた彼女の現在の恋人を探して欲しいという依頼を受ける。調査をすすめるうちに、ドクは思いもよらない程大きな事件に巻き込まれていることに気づくのだが。

わたくし的見解

ヒッピー全盛期のアメリカLA(ロサンゼルス)を舞台に繰り広げられる物語なのだけれど、70年代とはそういうものだったのか、昭和の名作TVドラマ「探偵物語」が思い出されて仕方がなかった。

この時代の探偵ものは、アメリカ産ハードボイルド小説の影響を多分に受けるものなのかも知れない。表向きはガチャガチャと騒ぎ立てても、ことの終わりはビタースウィート。あるいは、ただビターであることも。

髪の毛がモワモワの一見チャラチャラした軽い探偵が、実は妙に人情深く義理に篤い。そのため周囲から信頼されていて、たのまれ事も増えていく。

所轄の刑事とはすっかり馴染みだが、基本的には天敵のようなもの。しかし、持ちつ持たれつの腐れ縁。ルパンと銭形のとっつぁんのような、結局は仲間以上に仲良いんじゃないか。

なんだよ悪友と言う名の親友かよ、みたいな。探偵、松田優作ホアキン・フェニックスで、横暴な刑事、成田三樹夫ジョシュ・ブローリン。やたら男臭くて色っぽくて。そういう作品です。

ただ、トマス・ピンチョンという作家の小説が映像化されたのは、これが初めてだそうで。ピンチョンの作品は非常に難解らしい。実際、この映画も一筋縄ではいきません。

主人公のマリファナ中毒ぶりを、存分に満喫できるというか、おかげで頭がグルグル回るような感覚を味わえるくらい。

次から次と登場人物が増えて、解決しなければいけない案件も増えていく中で、これってマリファナでラリっているだけで、本当に起きている事なの? 本当は全部、主人公の頭の中でだけ起きている事なんじゃないの? と疑りたくなります。

すべてが終わり、全部は解決していなくても、それなりに八方まるく収まったような気がした後でもなお、この疑いは捨てきれない。

本当に起きた事なの? 本当は最初から何にも起きていなかったんじゃないの? そんな感覚までひっくるめて、この作品の魅力であり、ピンチョン小説らしさが見事に反映されている脚色であるようです。

インヒアレント・ヴァイス(内在している欠陥)というのは保険用語のようですが、映画を観終わってみると主人公にとっての依頼人(元カノ)であったのではと想像されました。

原作とは異なるエンディングも、欠けていた彼女を取り戻して終わったように思えて、さんざんグルービーに大騒ぎして混乱させられた2時間半も、それなりのカタルシスを得て安堵しました。

ポール・トーマス・アンダーソン監督(以下PTA)の前作「ザ・マスター」は、PTA作品ではお馴染みの撮影監督ロバート・エルスウィットがスケジュールが合わず不在で、PTAらしさが多少欠けている印象を私は持ちました。

インヒアレント・ヴァイス」では再びロバート・エルスウィットが参加し、音楽はPTA作品3度目で、こちらもお馴染みレディオヘッドジョニー・グリーンウッドと、ファンとしては垂涎のメンツが揃いぶみ。

PTA自身が親交の深かった、ロバード・アルトマン監督作「ロング・グッドバイ」などから今回は影響を受けたと語っていたこともあり、群像劇の名手再び! という喜びも。

とは言えPTAファン以外にとっては、ジャンキー体感を得られることを除けば、ちょっと文学的過ぎで煙に巻かれた感じがしんどい長尺の作品なのでは、というのが率直な感想です。鑑賞前には、その点を熟考されたし。