じゅんっ、ホタどぅ!
6才のボクが、大人になるまで。
映画情報
- 原題(英題):Boyhood
- 制作年度:2014年
- 制作国・地域:アメリカ
- 上映時間:166分
- 監督:リチャード・リンクレーター
- 出演:パトリシア・アークエット、エラー・コルトレーン、ローレライ・
リンクレーター
だいたいこんな話(作品概要)
オリヴィアは、サマンサとメイソン、二人の子供を育てるシングル・マザー。かつて結婚と出産で断念してしまった大学へ、再び通うことを決意したのは、子供たちを育てるためでもあった。
引越しやオリヴィアの再婚、アラスカから戻った父との交流などを通じ、12年に及ぶメイソンのBoyhood、少年時代に目を向けた人間ドラマ。
わたくし的見解
いわゆる、スライス・オブ・ライフそのもの。ただ、スライスの仕方が他の映像・文学作品よりも、定期的で継続的なのが特徴と言えるかも。
何しろ邦題のとおり、リアルに6才の男の子がハイスクールを卒業するまでの12年間、同じ子役で撮り続けています。人気ドラマ「24-TWENTY FOUR-」のように、12年間断続的に見せられたら正直たまったものではありませんが、金太郎飴のようにスライスした断面を連続して見せてくれる手法です。
しかし、人間が最も成長する(外見的変化をとげる)時期でもあるので、見えてくる金太郎は同じ顔ではありません。ちょっとずつ、あるいは大きく変わっていく外見。単純にたったそれだけを眺めているだけで、不思議と飽きないものです。
役者を変えずに長いスパンで撮りました。とゆーコンセプトだけ知って観ていたので、律儀に1年に1回集まって撮影していたと知って意外。てっきり数年に1回の撮影ペースだと思い込んでいた私は、想定外にマメな撮影陣にちょびっと敬服しました。
この企画の成功要因のひとつは、パッケージにも使われている主人公のボクが、何しろ可愛い男の子であること。
スカーレット・ヨハンソン似のボクは、最終的には欧米人のハイティーンらしくオッサンくさく見える時もありますが、髭が生えてもやっぱりスカヨハ的魅力は健在。どれほどのオーディションをしたのか知りませんが、監督はしてやったりだったと思います。
やはり、6・3・3で12年、コイズミ学習机的な年月をかけた撮影に、この作品の評価の多くが集約されがち。
たしかに根気の要る、またキャストのうちの誰かが何かしらの理由で脱落してしまえば、それだけで簡単におじゃんになってしまう企画ではありますが、斬新さで言えば日本人にとってはそうでもなかったりするでしょう。だって「北の国から」があるし。
ただ「北の国から」を、そこそこ支持している(←熱烈な支持者のいる作品ですから謙虚に、そこそこと申しております)私にとっても「6才のボクが」は、似て非なるものとして十分評価に値する作品でした。
「北の国から」って、とてもドラマティックでしょう。対して、この作品はアメリカ映画のくせに淡々としているのです。
出てくるのは、パトリシア・アークエットとかイーサン・ホークといったTHEハリウッドな俳優なのに、あっさりしていて私はその辺りが大変に好みでした。味が薄い訳ではないんです。きちんと旨味があります。カールはやっぱり、うすあじ派。
スライス・オブ・ライフは、日本の2次元の作品では空気系と呼ばれているようです。「けいおん」とか、そのものズバリ「日常」なんかがそれに当たるのでしょうか。日常の積み重ねを見せるだけで、案外ドラマになるものなのです。
監督は「ビフォア・サンライズ」(邦題は「恋人たちの距離」)から「ビフォア・ミッドナイト」までのシリーズを撮っている人物なので、さり気ない日々の会話を切り取る作業とイーサン・ホークのことが、とにかく好きな人なのでしょう。
日本では「泣ける」作品の評価が高くなりがち。この作品は、そこには当てはまりません。主人公のボクは成長過程で大きく道を外すこともなく、特に何も起こりません。
誰も死なないので、面白くない人にとっては本当に退屈な映画かも知れませんが、何気ない日常のドラマとしては秀作です。あっさりしていて美味しい、後味もさっぱり。ささやかながら芳しさも残る気がする作品です。