映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

とにかく丈夫なディカプリオ

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レヴェナント:蘇えりし者

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

1823年、開拓時代のアメリカ北西部。ヒュー・グラスは、ネイティブアメリカンの妻と息子ホークと共に、毛皮を得るために狩猟し輸送する白人の部隊に、ガイドとして加わっていた。

大量の毛皮を輸送する最中に、ネイティブアメリカンのある部族により襲撃を受けたことから、砦までの帰路が極めて困難に。グラスは斥候として単独で行動したおり、グリズリーに襲われ瀕死の重傷を負ってしまう。

わたくし的見解

作品を鑑賞した人の中には、1990年の映画「ダンス・ウィズ・ウルブス」を思い出した人もいるようです。ダンス・ウィズ・ウルブス(狼と踊る男)とは、ある白人男性がネイティブアメリカンに与えられた名前。

「レヴェナント」の時代設定は「ダンス・ウィズ・ウルブス」よりも40年ほど早いので、どちらもネイティブアメリカンと交流の深かった白人が主人公ではあるものの、状況は随分と違います。

しかし「レヴェナント」の主人公が、物語の以降もネイティブと関わる人生であったなら、おそらく「熊と寝技で闘う男」と呼ばれ、一目置かれたことは間違いないでしょう。

タイトルに象徴されるように、主人公の男は何しろ驚異的に丈夫で、熊にやられてほぼ死に、どうにか生きていたが極寒の川を流れほぼ死に、とりあえず生きていたが傷が腐り、やはり死ぬみたい。と、繰り返し死にかけては蘇る物語と言っても過言ではありません。

あまりネタばれは好ましくないのですが、原作のタイトルに至っては「蘇った亡霊:ある復讐の物語」と全部言ってしまっているので、問題ないかな。

どのような作品も、要約してしまえば身も蓋もないもの。映画「レヴェナント」については、どのように男は蘇り、また蘇る力の原動力とも言える復讐を果たして遂げることが叶うのか、が見事な映像叙事詩として描かれているところを見てやって。

ひたすらアカデミー最優秀主演男優賞のお預けを食らってきたレオナルド・ディカプリオが、やっとオスカーを手にした作品ですが、10代の頃からすでに性格俳優だったディカプリオ。

ここにきて円熟味を増し、その演技力が頂点を迎えたことへの評価というよりは、正直「よくがんばったで賞」の扱いです。凄まじく過酷な環境での撮影だったことは疑いがなく、その甲斐あって実に素晴らしい映像作品に仕上がっています。

畏怖の念さえ抱く雄大な自然、みたいなものはBBC製作のドキュメンタリー映画でも拝めますが、この作品の特筆すべき点はエマニュエル・ルベツキなる人物の撮影手腕です。

カメラ位置や編集点の見えなさに驚かされる、スルスルと鮮やかな長回しに特徴のある人で、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の前作「バードマン」や、アルフォンソ・キュアロン監督の「ゼロ・グラビティ」の映像が記憶に新しいところです。

「レヴェナント」では特に序盤の、主人公が属する白人部隊がネイティブアメリカンの部族に襲撃される、かなり長めのアクションシーンが圧巻。

私が、エマニュエル・ルベツキの映像に初めて感銘を受けたのは「トゥモロー・ワールド」(2006年)で、作品については、つまらなくはないけれど面白い! とも言い切れず、そこはかとなく漂うB級感に評価のしづらさを感じていました。

しかし、中盤以降に展開される超長回しの妙に生々しいアクションシーンによって、突如、ゼロ年代を象徴する重要な作品として位置づけることに。

中心人物を追いかけているようで、次々とターゲットを移し動き回る視点は、死神のもののよう。観ていると、渦中に置かれているような緊迫感があり、心拍数が上がります。

ところが、カメラのレンズに飛ぶ血しぶきや、接写している生物の呼気によって画面が曇るなど、カメラがカメラとしてそこにあるメタ表現によって、とても不思議な心持ちになるのです。

私は、そのような映像表現が大変に好みなのですが、先日の日経新聞では「中途半端」と一刀両断されていて残念無念。

しかし、中途半端かどうかを確認しに行くだけの価値は十分ある作品です。インディアンに頭の皮を剥がされたせいで、禿げ散らかしているトム・ハーディも、個人的にはかなりのオススメ材料だったりします。