映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

シニカルの糖衣錠

f:id:eigaxavier:20170906234431j:plain

アメリカン・ビューティー

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

舞台はアメリカ、郊外の閑静な住宅地。うだつの上がらないサラリーマン、レスターは不動産業を営む妻とのあいだに娘を一人持つ、ごくごく平凡な中年男。妻とは倦怠期まっ只中、典型的なティーンエイジャーの娘はいつも不機嫌で会話もない。会社ではリストラ候補としてレポートの提出を求められる。

くさくさした毎日に変革をもたらしたのは、娘の親友アンジェラと、隣に越して来た少年リッキーとの出会いだった。

わたくし的見解

冒頭、薄暗い部屋で家庭用ビデオカメラに撮られている少女は「あんなパパ、死んで欲しい」と洩らす。カメラを構えているボーイフレンドは「僕が殺してあげようか」と答える。

その後、舞台となる住宅地の空撮とともに主人公によるナレーションが始まり、軽い自己紹介と「一年以内に俺は死ぬ、この時はまだ当然そんなこと知らないけどね」と、いきなりの死亡宣言が。

不吉な言葉のもたらす印象とは裏腹に、映像は晴れた日の愛すべき我が街、愛すべき我が家を丁寧にとらえます。

物語はひたすらにコミカル。その中で丁寧にうわべの美しさと、裏側にずっと隠してきたものを描き出します。

ビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」のように、死んだ男の回想として繰り広げられる数日間。主人公は、いかにして死を迎えたのか。

エピソードの数々を常にシニカルな笑いでシュガーコートすることで、静かに漂っていた哀しみが、かえって浮き彫りに。そのバランス感覚の妙は、実に見事で鮮やかでした。

アメリカン・ビューティーとは、劇中にもしばしば登場し、画面に彩りを添えている深紅のバラの品種名だとか。

しかし同時に「アメリカン」は、作品に登場する(一見した限りは)絵に描いたように幸せな?アメリカの中流家庭を指しているに違いないし、さらに続く「ビューティー」の語をもってして、皮肉に満ちたこの物語を完璧に表現しているタイトルと言えます。

サム・メンデスにとって初映画監督作品であり、脚本家もまた(TVの脚本家として活躍していたものの)映画脚本を手がけたのは、これが初めてと言うから驚き。1999年公開の作品ですが、今観ても断然おもしろい。

またサム・メンデス監督は「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」において、「アメリカン・ビューティー」と同じ系譜の作品に取り組んでいます。そちらでは、一切のコミカルを捨て、洗練を極め、またしても高い完成度を実現させました。ぜひ比較しながら、ご覧になってはいかかでしょうか。