万引きしない家族
パラサイト 半地下の家族
映画情報
だいたいこんな話(作品概要)
窓からは通行人の足元ばかり見えるような、半地下の住宅で暮らすキム家。息子ギウは何度も大学受験に失敗し、娘ギジョンも美大への進学はあきらめ、ハンマー投げのメダリストだった母はその実績も生かせず、計画性のない父親を筆頭に家族全員が無職で貧困に喘いでいた。
ある時、ギウの友人が家庭教師のアルバイトを紹介してくれた。その生徒の父親はIT企業の社長のパク。かなり裕福で高台の高級住宅地に住んでいた。ギウは自らが大学生であるかのように書類を偽装し、見事に面接に合格した。さらに生徒と母親からも信頼を勝ち得たギウは、パク家の下の子の美術教師に、自分の妹ギジュンを赤の他人のふりをして推薦する。
同じような手口で、無職だったキム家は全員がパク家の運転手や家政婦として仕事を得たのだが。第72回カンヌ国際映画祭、パルム・ドール(最高賞)受賞作品。
わたくし的見解/格差に寄生する
近ごろ流行りの「格差社会を鋭く斬る」タイプの映画です。昨年、当たりに当たった「ジョーカー」のような重苦しさはなく、皮肉がユーモアとしてきちんと機能したコメディになっています。正確には悲喜劇ですが、上映中は観客からしっかり笑いを取っていました。
本作と同様に、カンヌ映画祭で近年高い評価を得た「万引き家族」と比べても、大変わかりやすくシンプルで面白いです。貧乏一家が、様々な嘘を用いて金持ちファミリーのセレブな暮らしのご相伴に預かろうとする流れの中、王道パターンとして偽りの素性が明らかにならないようにドタバタ劇が繰り広げられますが、その様子は秀逸。
リアリズムを極めた「万引き家族」のそれと違い、あえて寓話的に、まるで絵本のワンシーンのように描かれたクライマックスシーンは「『パラサイト』観たよ」と言う人と是非とも語り合いたい。それをおかずにすれば白飯はお代わり必至、アテにしたならお酒も大いに進むでしょう。
リリー・フランキー(「万引き家族」の父役)の表情も絶妙な抜け感と雰囲気がありますが、本作のソン・ガンホの顔はさらにその上をいく味わいで、ポン・ジュノ監督が彼を使い続ける理由に納得しきりです。ソン・ガンホの存在によって物語は深刻になり過ぎずエンタメ性が保たれ、それでいてシリアスさもしっかり発揮できる稀有な俳優です。
おまけに「パラサイト」には、貧乏なパク家の妻や元々キム家に仕えていた家政婦など、ソン・ガンホと並ぶ座りのいい顔立ちが充実しており、冗談みたいに容姿端麗なキム夫妻との明確な(身分? 環境? あるいは立場? の)違いを見せつけます。
そのように外見は対照的な富裕層と貧困層の面々ですが(ただし若者は例外)、この作品の素晴らしさは、その二つを善玉と悪玉に分けて単純な勧善懲悪に集約させないところです。
終盤、まさか金持ちだけ悪者にして終わるのか?! と不安がよぎりましたが、展開として不可避な対立構造が生まれても、特にどちらか一方を断罪して終わらず、だからこそ生まれるやるせなさを見せるあたりが乙でした。
お金持ちも貧乏人も、どちらも聖人君子ではないものの、かと言って悪人でもありません。実際に、それほど互いが激しく忌み嫌いあっている訳でもない。けれども如何ともし難い、この隔たりは何なのか。この目に見えない怪物を可視化しようとする試みとして、本作のような映画があるのかも知れません。
人々が実は知っているのだけれど気づかないふりをしている、格差という問題について、目を背けさせまいとする一連の動き(このような作品への評価の高まり)は、果たして功を奏するのでしょうか。場合によっては、さらに格差を助長し分断を決定的にする可能性も秘めた、諸刃の剣であるように私は感じています。