映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

猫にかまけて

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犬ヶ島

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

舞台は、20年後の日本の都市。ドッグ病(犬特有の伝染病)が蔓延し、メガ崎市長はすべての犬を「犬ヶ島」(離島のゴミ処理場)へ追放する条例を施行した。

しかし、メガ崎市長のやり方は、ドッグ病が人間にも感染するかのようなプロパガンダや、ワクチンによる治癒の可能性の隠蔽など、強引そのもの。

すっかり「犬ヶ島」が、ドッグ病に冒され人間との絆を失った犬たちの絶望の場所となった時、たった一人の少年が愛犬を救うため、小型飛行機で「犬ヶ島」へ向かう。その少年アタリは、なんとメガ崎市長の養子だった。

果たしてアタリは、無事に愛犬スポッツと再会し、「犬ヶ島」の犬達を行政処分から救うことが出来るのか。ストップモーション・アニメーションで織り成す、冒険活劇。

わたくし的見解

まったくの私事ですが、子猫を家に迎えることになりまして、猫が来る前に「犬ヶ島」観とかなきゃ、と思った次第。

「ニャんで、『犬』ヶ島とか観るのニャ!」とか言って、妬きもち焼くじゃないですかぁ、猫って。

実際は、外で本物の犬と戯れようが、ただただ匂いを嗅がれるだけで、我関せずって顔されるだけなんですけど。ほんと猫ってヤツは。

さて、広く一般的な評価については、いつものウェス・アンダーソンの映画と同様に「そこそこ」かなと思われます。ところが私個人に限って言えば、今年一になり得る出来映えでした。近年作品のベストにも入りそうな勢いです。

ウェス・アンダーソンの映画は、近頃はあまり聞かない、いわゆる「単館系」の作品。好きな私でさえ、どれが一番メジャーな作品なのか、よく分かりません。賞レースに多少からんだという点では「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」「ムーンライズ・キングダム」あたりが比較的メジャーでしょうか。

そんな感じなので、好きな人だけが鑑賞するタイプの作風かと。特にファンではない人が観た場合、エンターテイメント性はあるので退屈はしないけれど、薄ーくクセを感じるはず。

23時以降に放映される日本のTVドラマのノリが、ほど近いかも知れません。バブル世代には、何故か嫌われるサブカル感。

同じニオイのする、日本の深夜ドラマとウェス・アンダーソン映画。相違点を挙げるならば、ウェス作品には貧乏臭さがない。深夜ドラマも低予算の割に、キャスティングが豪華なのが定番ですが、ウェス作品はキャストのみならず、製作費も手間暇も惜しみない。サブカル臭と何故かラグジュアリー感が両立する、不思議な作風です。

本作は、監督にとって2作目のストップモーション・アニメーション映画です。もともと実写映画の時も、箱庭の中で物語が起こっているようなウェス作品。ストップモーション・アニメーションでは、より一層その感覚が際立ちます。

箱庭的物語はスケールが小さくなりますが、そのぶん限定された世界観に緻密さが増します。きめ細かなディテールの集大成として「犬ヶ島」は、ウェス・アンダーソンの真骨頂と言えるでしょう。

そして本作の魅力を支える、もう一つの柱は、犬映画としての完成度の高さです。ふとした時の犬の仕草が、とても犬らしくて愛おしい。

犬がどんな事を考え、犬同士でどんな事を話しているかは、フィクションの極み。あえて劇中では基本、人間と犬が言葉では通じ合っていないのも、ファンタジー色を濃くし過ぎないちょうどよい設定でした。

作品の中では、日本語と英語が混在しているし、外国人によって描かれる近未来の日本は絶妙なキワモノ感があって、ディテールにこだわっているだけに、かなり混沌としています。

けれども、言葉は通じなくても、少年と犬は想い合っている。という、ベタでハートフルな部分が、雑然とした作品の中で効いてくる。

ところで、犬を排除しようとするメガ崎市長側の悪者たちは、皆わかりやすく猫を抱いているのも、実にベタで私は好きです。

だいたいの動物映画において、犬は正義で猫は悪なのです。確かに、実際の犬の真摯な眼差しや、どんなにゴロゴロ喉を鳴らしても、心までは抱かれないと言っている猫の冷たい視線を見れば、ステレオタイプな動物映画に文句を言う気もなくなります。

今さら文句はありませんが、犬も猫も愛すべき存在であることには変わりません。「犬ヶ島」は、とても犬愛を感じられる映画。こんな猫映画も是非、観てみたい。

猫人気の中、さまざまな猫作品があれど、やはり人と猫には相思相愛感が弱いせいか、犬映画みたいにはならないですね。ここで一句。
猫が好きマゾヒスト的片想い

さて本題の「犬ヶ島」は、大人の絵本のような作品としてお楽しみ下さい。あるいは、アートブックみたいな映画です。