映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

おれがあいつであいつがおれで

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君の名は。

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

神社の石階段から同時に転がり落ちた滝と三葉は、互いの心と体が入れ替わってしまう。滝の体には女子高校生の三葉の心が、三葉の体には男子高校生の滝の心が。他人というだけでなく、いきなり異性の体になってしまった自分に戸惑いながらも、どうにかそれぞれの学生生活を送ろうと七転八倒の日々が始まる。

しかし、二人にさらなる試練が。実は、滝は地球上から植物が絶滅した後の時代からタイムトラベルしてきた、未来人だったのだ!滝は未来に戻る期限が近づいているのに、二人の体はまだ入れ替わったまま。ティアマト彗星が1200年ぶりに地球に最も接近する日が、滝の未来に帰らなければならないリミット。その時は、刻一刻と近づいてくるのだが。

(今回の「だいたいこんな話」は、ほぼほぼ嘘です……)

わたくし的見解

シン・ゴジラ」ヒットの興奮もまだ冷めやらぬ、8月の末に公開されて以来、快進撃を続ける「君の名は。」。

本年度のみならず歴代興行収入を見ても、押しも押されもせぬ大ヒット作品となりました。TVショウでもインターネットでも、日々伝えられる作品の魅力、そしてヒットの要因分析。犬も歩けば耳にする、前前前世。観客動員は1千万人を超えたとか、原作小説の売上は100万部突破したとかハンマカンマ。

溢れかえる情報の波にのまれ、すっかり観た気になっていたのですが、実は先日やっと鑑賞したばかりなのです。

新海誠作品が苦手だったので、このまま何となくスルーしようとさえ思っていたのですが、ここまでヒットしているなら普通に面白いはず。素晴らしいエンタメと、あちこちで絶賛されていたので、それなら今までの新海作品とはだいぶノリが違うのだな、と安心して鑑賞に臨みました。

映画好きを自称しておいて、観ていない作品にケチをつける訳にも参りませんし。文句を言うなら観てから、とも思った次第。

ヒット作品は大抵そうなるのですが、大絶賛と酷評が入り乱れます。「君の名は。」の食べログ的口コミ批評の賛否両論具合は、もはやジブリ作品のそれとよく似ており、大したものだと逆に感心したりして。

わたくし的には、新海監督が大人になったところが、実に評価すべきところであると思います。特に初期作品において、一人で全部やってて凄い才能が出てきたと高く評価されていた新海監督なのですが、一人でやらない方がよくない? というのが個人的本音でありました。

ある意味で、それは完成形でもあった訳ですが、一人で作ることの限界も同時に強く見えてしまっているのが、新海監督の初期作品でした。才能は否定しません。

でも、例えば脚本や演出において、さらに才能のある人とタッグを組めば、もっと可能性が広がるであろうに、何故しない。という歯痒さが彼の作品への苦手意識の最たる部分だったので、「君の名は。」は、そういったモヤモヤが解消されて、スッキリ爽快。これなら、まださらなる高みも期待できそうな。空も飛べるはず、そんな気分です。

キャラクターも気持ちの良い人物像へと刷新されたように思えます。村上春樹作品で言うところの「1Q84」が、「君の名は。」にあたります。それまでの作品の主人公は基本受け身で、主人公ゆえに魅力的に描かれてはいるものの、やや苛々がつのる人物だったのが、今回は大変に能動的で、好感が持てる上に応援したくなっちゃう。これって、とても重要だと思うのです。

ここが良くなった、あれも良くなっていると思えたネオ新海作品ですが、これは新海誠の進化というより、川村元気という人の功名ではないかと信じて疑わない私。幅広い層に受け入れられる作品づくりへのティップスを作家に与えたのは、商魂たくましい東宝のエース、川村元気に他ならないはず。

この作品、単純にテンポが良いだけではなく、映画を観ない観たことがない層を明らかに意識した作りで、ドラマやアニメのオープニングのような冒頭部分、高らかに鳴り響く主題歌とPV的映像でグッと観客を惹きつける手法は、その最たるもの。

映画好きには違和感ありありの演出ですが、エグい手法ながらも出来は良く、私としては「絶対にヒットさせる!」という強い意気込みに気圧され、かえって清々しいわ、とさえ感じました。

おそらく今となっては、さほど多くない映画好きを唸らせる作品をつくることも、映画にたずさわる人間として叶えたいことでしょうが、これほど趣味が多様化した現代において、映画館で映画を観ない観たことのない大多数の層を新たに取り込むことも、やはり映画人として今やっておくべきことなのだと思います。

不景気ムードの中、失われた世代なんて呼ばれて細々生きてきた私としては、「君の名は。」あったよねー! 高校生の時に見た見たぁー! と、いつか同世代の共通の話題として嬉々として盛り上がれるであろう今の若者たちが、ほんのチョビッとだけ羨ましく思えたり。

大ヒット作品というのは、そういう効能もあるだと思い知らされました。