映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

怒鳴り芸の真骨頂

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セッション

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

ジャズドラムの演奏家を目指す若者と、彼が入学した名門音楽学院の教師とで繰り広げられる人間ドラマ。サンダンス映画祭を筆頭にあらゆる映画祭で高い評価を得た話題作。アカデミー賞ノミニーでもある。

アカデミー賞にはノミネートはされるが絶対に最優秀賞は獲得しない若手監督作品枠があるらしく、その暗黙の了解枠に本年度あたるのが、この作品。

原題の“whiplash”とは、鞭のひも、またはむち打ちの意だが、劇中演奏される楽曲のタイトル。タイトルの意味と物語の内容とがリンクしているのは製作者側の意図か、ただ楽曲タイトルを取り上げたことによる偶然の産物か。邦題の「セッション」も内容をよく捉えていて大変良いタイトルと言える。

わたくし的見解

世代的に、根性といふ言葉に少なからずアレルギーのある私でも、近頃は「しかし、登りつめたら根性論」と感じることがあります。

おそらくアレルギー反応を示していたのは、うさぎ跳びで階段を上るだとか、バテるから水は飲むなだとかの、今となっては利よりも害がハッキリ立証されてしまったエセ根性に対してで、実は必要なのではと思えてならない「根性」とは別ものだったのかも知れません。

たとえば、今の錦織圭選手が彼よりもランキング上位の選手と戦うとき。

持って生まれた体格差や完全には克服できていないウィークポイントがあったとして、しかし、まず負けるというほど実力差がある訳でもない場合には、とっさの判断力、スタミナなどと同等に、根性は試合中に必要な要素のひとつではないでしょうか。

今風の言い方をすれば、メンタルの強さ、と置き換えることも出来そうですが、最後まで勝つことを諦めない気持ちは「根性」と呼ぶ方がしっくりきます。

実際に根性が必要になるのは、何かを始めて三日坊主で終わらせないような事ではなくて、何かをやり尽くして出来る努力はすべてやった後なのかもと思ったりするのです。

さて、やっと映画の話。

この作品は、ドラ息子ならぬドラムする子とその指導者の物語で、非常にベタなスポ根青春ものの様相で始まります。定番の「若者の栄光と挫折」を、なかなか良い出来ではあるまいか、と安心して観ていたら、中盤からは若者と同格あるいはそれ以上に指導者を描きたかったのか?! と思うような展開へ。

この指導者のキャラクターが非常に立っていて、パイロット版から本作の俳優を起用していただけのことはあります(そのパイロット版の評判で出資を集め、無事に長編映画が完成したらしいので当然と言えば当然なのでしょう)。

トビー・マグワイアが主演をつとめた「スパイダーマン」前シリーズの、新聞社の編集長を演じていた俳優がその人です。怒鳴らせたら、もはやハリウッドいち。

主人公いわく、アメリカでトップの音楽学院の中で、さらにトップのバンドの指揮者が主役以上の準主役である指導者なのですが、いわゆるカリスマ的存在。学生バンドの指揮者とは言え、日本でも甲子園常連校の監督や某大学名門ラグビー部の監督などはプロも一目置く存在ですから、そのカリスマ性は想像容易いでしょう。

しかし、この作品のカリスマ教師はすさまじいスパルタ指導。暴君そのものです。おそらく現在の日本ならば、この指導方法の厳しさは確実にモンスターほにゃららと名付けられる人たちの餌食になるもの。

教育現場ならば確かに問題あるのでしょうが、この作品について言えば、演奏を楽しみたい、そのことで人生を豊かにしたいという次元ではなく、プロを目指している者への指導なので単純な批判はお門違いかもと私は感じました。

そうは言っても本作でも、ある事件をきっかけに、その指導方法が問題視され物語の方向性が変わります。

ところが、映画は厳しすぎる指導方法についての是非は問わず、ドラムを叩きまくる若者と指導者の怒鳴り声とのセッションを見せることでクライマックスまで持っていったところが、実に面白いところ。

指導者の厳しさの根底には、歴史に残る素晴らしい演奏の実現という極めて純粋な動機があることを示しつつも、決して「実は良い人」として描かれていない点も、個人的には好ましい部分でした。

唯一残念なのは、今回ご紹介した時点では劇場公開がほぼ終わってしまっていることです。

ジャズを取り上げているだけに、音楽シーンを含め全編とおして生のライブ感に通じる、手に汗握る緊張感が張りつめていて作品の醍醐味になっています。

これはリラックスした自宅鑑賞では、なかなか味わいにくいもの。劇場鑑賞ならでは緊張感が魅力の多くをしめる映画なので、リバイバルやアンコール上映の機会があれば見逃さないで頂きたい。

あるいは、スネ夫的お金持ちのお友達からシアタールームに招待されたあかつきには、是非この作品をリクエストして下さい。

スネ夫的お友達が、三人招待しておいて「シアタールームはボクのぶんも入れて三人分しか席がないんだ。のび太(あなた)は外で待っててよ」と言われてしまったら、一般の劇場での上映を待つしかありません。いやぁ、いろいろ残念ですね。