映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

スープラ・イズ・バック!

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ゴールデン・リバー

映画情報

 

だいたいこんな話(作品概要)

1851年、ゴールドラッシュに沸くアメリカ。オレゴンで、あたり一帯を取り仕切る「提督」に雇われてシスターズ兄弟はウォームという男を追っていた。

兄弟はいわゆる泣く子も黙る名の知れた殺し屋。標的のウォームは黄金を見分ける化学式を発見した人物だった。すでにウォームに接近し同行している連絡係のモリスからの情報を頼りに、兄弟は何日も馬に乗り山を越え、ようやく二人に追いつく。

化学式を聞き出した後ウォームを殺すはずが、モリスの裏切りによって逆に兄弟は捕らわれ銃も奪われてしまう。しかし、そこへ黄金に目の眩んだ別の追っ手が迫り、兄弟はウォームとモリスに加勢を申し出て4人は一時的に手を組むことに。

無事に追っ手を撃退した4人は、ウォームの化学薬品を用いて手に入れた黄金を山分けすることで合意した。兄弟は、それまでの暮らしでは知りようのなかったウォームとモリスの価値観や理想に感化され、彼らと絆を深めてゆくのだが。

 

わたくし的見解/

戦後、ハリウッドは西部劇の黄金期だった。そこにはアメリカ人の誇りと礎である、フロンティア・スピリッツが華々しく描かれていたからだ。ところが同時にそれは、あまりにも白人が主体で至上主義ともとれる差別的表現の宝庫でもあった。当然(多様性を認めるなどの)現代的な思想が一般化すると共に西部劇は過去のものとなってしまった。

2002年に生産終了したトヨタスープラが17年ぶりに復活、新型を発表した時の豊田章男社長のコメントを個人的に気に入っている。「かつてアメリカ開拓時代を支えた数多くの馬は現在、自動車にとって代わられた。しかし、競走馬は健在だ。今後、自動車が他の何かに代替されてもスポーツカーは残る」という説得力に満ちた詭弁(?!)で、実用性という観点では今、数多く流通している車とは真逆のベクトルに向かうスポーツカーを復活させた。

時代は変わっても西部劇だけは映画界に残り続ける、と話を続けたい訳ではない。ただ、西部劇のエッセンスはアメリカの精神に無関心な人間にとっても、捨て置くには惜しいものだと実感した。古い映画を観ていても、また本作でも、馬が駆け巡る姿の迫力と美しさは現代的なアクションに何ら引けを取らない。そして、いつの時代でもガンマンは間違いなく格好いい。

近年、西部劇の名作リメイクもあったが本作の特長は極めて渋いキャスティングに支えられた男臭さだ。むさ苦しさは印象だけにとどまらず実際にかなり臭そうな(何日も風呂に入っていないのが似合う)メンツだからこそ、最高に魅力的な西部劇に仕上がった。砂埃にまみれる筋骨隆々な馬の姿を見ていたら、頭の奥で「スープラ・イズ・バーック!」と章男の声がした。

作品のクライマックスと分岐点は、邦題の「ゴールデン・リバー」に表されているような黄金の獲得であることに間違いはない。しかし、本作の主軸は原題の「シスターズ兄弟」から分かるとおり家族の物語だ。

キーマンであるウォームの掲げる理想論とそれに心酔したモリスの存在は、粗野に生きてきた兄弟の未来像にも変化をもたらす。ウォームのキャラクターは面白い。知識人らしく腕っぷしは全く駄目だが登場人物を次々と懐柔していく様は、結局彼が一番の山師なのではと勘ぐりたくなるほどだ。

ウォームの場合は相手を騙すのではなく、ただ自分の命を守ることや理想の実現に向けて支援者を増やすための友好的な振る舞いであったが、その柔らかな物腰によって警戒心を捨てたモリスや兄弟は本音を語るようになる。

その中でエピソードは僅かなのに、いかに彼らにとって父親の存在が大きいかが見えてくる。それは登場人物が男ばかりだからで女性が主人公ならば母親の存在が浮き彫りになるに違いない。強く感じられたのは、性別や時代や文化に関わらず、ほとんどの人は親の影響から逃れられないという事だ。

親のようになりたいか、あるいは、なりたくないか。どちらに転んでも、その影響下にあることは間違いない。これがすべてだとは言えないが、これが根本にあることは否定できないはずだ。同様に親や兄弟との関係そのものも断ち切ることは極めて難しい。家族ゆえのしがらみに苦しむこともあれば、その愛情の深さに救われることもある。

ジャック・オーディアール監督の映画は、いつも主人公が絶望的なまでにボロボロになる。そして取って付けたように八方丸く収まって終わる。今回はお馴染みの唐突なハッピーエンドが、これまでよりも自然に思えた。映像もオープニングから惹きつけられる素晴らしいものだった。

ジョン・C・ライリー演じる見かけによらず繊細でロマンティストな兄と、ホアキン・フェニックスによる粗暴極まりない弟という対照的なキャラクターは完璧と言って良い。個人的には(もう7月だが)今年の上半期で、最もお勧めしたい作品となった。