映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

現代版「クレイマー、クレイマー」

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マリッジ・ストーリー

 映画情報

 

だいたいこんな話(作品概要)

ニューヨークのオフブロードウェイで、一目置かれる存在の舞台監督チャーリーと常にその舞台の主演女優をつとめるニコールは十年来連れ添った夫婦。

チャーリーの劇団は初めのうちは、かつて映画に少し出演した経歴があるニコールの知名度で観客を集めていたが、現在では作品自体が評価されるようになり芸術文化を推進する助成金の対象にも選ばれるほどだ。いわば二人三脚で劇団を大成させたと夫婦は互いに感謝し評価し合っている。

二人には8歳になる息子ヘンリーがいて、チャーリーもニコールも子煩悩で家族仲は良い。にもかかわらず、夫婦間の些細なすれ違いから離婚を決めた。

当初は二人とも弁護士を立てる必要はまったくないと考え、円満に協議離婚が進むはずだった。ところがニコールがロスでの仕事を決めて、チャーリーを連れてニューヨークを離れたところから話がこじれ始め、離婚は高額の報酬を受け取る離婚弁護士をはさんだ醜い戦いに変わってしまう。

Netflix(ネットフリックス)配信作品。

 

わたくし的見解/輝きたい女と男の無頓着

前回は45年の夫婦生活が6日間で終焉してしまう話をご紹介したが、今回は結婚10年の男女が離婚する物語。ありがたいことに主演の二人は、まだまだセクシーだし夫婦の子供は可愛いしで、本作は大いに共感を得られそう。大変お勧めしやすい作品と言える。

現代版「クレイマー、クレイマー」と銘打ったのは、別れた(あるいは別れようとしている)夫婦が、それぞれ子供との暮らしのために不本意ながら裁判で争う羽目になる点が似ていたからだ。

1973年の映画「クレイマー、クレイマー」は、仕事人間で家庭を顧みなかった男が突然、妻に出て行かれてしまうところから始まる。妻は自らの人生を取り戻したいからと、幼い息子を残していった。

男は仕事と子育ての両立に七転八倒する日々の中で、それまでは多忙で距離のあった子供との絆は深まるが、仕事は疎かになり会社を解雇されてしまう。よりによって、そのタイミングで親権を放棄したはずの妻が、やはり子供と暮らしたいと訴訟を起こす。男は無職のままでは親権を得られないため必死に就職活動をするが、というような流れで一貫して夫目線で描かれる。

さらに主演はヒューマニズムの塊みたいなダスティン・ホフマンで、対して終盤にやっと顔を出す妻は薄ぅーい顔のクール・ビューティー若き日のメリル・ストリープなので、いかにも母性とか情とか希薄そうに見え、性別を問わず夫に肩入れして観てしまう映画かと思う。

その点は本作とは重ならず、「マリッジ・ストーリー」では夫と妻それぞれの視点や言い分について、かなりフェアな描かれ方をしていた。夫は舞台監督の仕事に情熱を傾けているが、同時に素晴らしい家庭人であり良き父親だ。

妻も「クレイマー、クレイマー」と同様に、自分のやりたい事のために離婚に踏み切るが、どの段階においても子供と離れて暮らす選択は一度もしていない。夫婦で互いに、その父親ぶり母親ぶりを賞賛している。

それなのに相手を尊重し評価する言動までもが離婚弁護士たちによって、それぞれを攻撃し傷つける事実として、裁判に利用されてしまう痛々しさが「クレイマー、クレイマー」を彷彿とさせた。親心を逆手にとった、えげつない離婚ビジネスである。

そのくだりとは対照的に、全体的にはとても明るく楽しい作品だ。家族っていいな、親子っていいな、人間っていいなと歌いたくるほど微笑ましいシーンの連続で、果たしてこの二人は何で離婚せなアカンのやろうと、最初から最後まで疑問に思っていた。

映画の中でも離婚を踏みとどまるタイミングが幾らでもあったのだが、今さら引っ込みがつかない、もう引き返せないというのも案外リアルなのかも知れない。覆水は盆に返せないものだ。

泥沼の裁判になる前、夫側についた勝ち負けよりも子供との人生を重んじる老齢の弁護士が「(親権、養育費の比率、共有財産の分配が)どのような結果になっても離婚後は、二人で協力してやっていかなければいけない」と嚙んで含めるように言い聞かせていたのが印象的だった。実際にそれはラストへの布石でもあったし、離婚する夫婦を描いているのに「マリッジ・ストーリー」とした所以のようにも感じた。

最後になったが主演の二人は最高だった。アダム・ドライバースカーレット・ヨハンソンも色っぽいと言うか、ある意味かなり眠たくなるリラックス効果抜群の声の持ち主なので、2時間半もある作品をうとうとせずに鑑賞できるか自信がなかった。しかしそんな心配はどこ吹く風、無駄に思える場面はなくテンポも軽妙で、かなり長回しの夫婦喧嘩もさらりと見事に演じきっていた。

アダム・ドライバーは「スター・ウォーズ」で、アホみたいなキャラクター(しかし大役)を演じているが、本作のようなドラマでの姿が真骨頂だと思う。スカーレット・ヨハンソンも外見は久しぶりにあどけない印象を与えながら、母性豊かな大人のキャラクターを確立していた。

続編は絶対に作らないで欲しいが、物語の二人には何とか復縁してもらいたいと切に願ってしまう、そんな作品だった。