映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

床がキンキンに冷えてやがる

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殺人の告白

映画情報

  • 原題:Confession of Murder/내가 살인범이다
  • 公開年度:2012年
  • 制作国・地域:韓国
  • 上映時間:119分
  • 監督:チョン・ビョンギル
  • 出演:パク・シフ、チョン・ジェヨン、キム・ヨンエ

だいたいこんな話(作品概要)

15年前、世間を震撼させた連続殺人事件の「犯人は自分である」と名乗り出る男がいた。自称連続殺人犯のイ・ドゥソクは、事件の真相について告白本を出版し、そのビジュアルの美しさも相まって瞬く間に時の人となる。

マスコミの報道が白熱する中、イ・ドゥソクはテレビ番組に出演する。番組の生放送中に「私こそが真犯人だ」と電話してくる男が現れ、事態は急展開を見せる。

国史上、初めての連続殺人事件と言われている「華城連続殺人事件」をモチーフに作られた、サスペンスアクション。日本映画「22年目の告白─私が殺人犯です─」は、本作のリメイク作品。

わたくし的見解

韓国の人にとって「華城連続殺人事件」は、誰もが知っている猟奇殺人事件だと聞く。前述したように、韓国史上初の連続殺人であると同時に、未解決のまま時効を迎えてしまったからだ。

日本だと(日本史上初めてでもなければ未解決でもないけれど)まさに「酒鬼薔薇事件」が当てはまると思う。国内での認知度の高さや、加害者自身が18年後に告白本を出版したことなどは、不気味に映画とリンクする。

とにかく誰でも知っている、いまだに虫唾が走る事件が下敷きにあるため、それについての細かな説明は「殺人の告白」では見事に端折られている。ここが、日本でリメイクした「22年目の告白─私が殺人犯です─」(以下、「22年目の告白」)で、一番アレンジされていた部分と言ってよい。

「22年目の告白」では「華城連続殺人事件」がベースにない日本人のために、別の前提が用意されている。

実は本作「殺人の告白」を鑑賞したのは、先日地上波でTV放送されていた「22年目の告白」を見た事がきっかけになっている。日本版とも言える「22年目の告白」は、CMを見た時から気になっていたのだ。

美し過ぎる殺人犯、だとか、記者会見のシーンだとか。韓国映画のリメイクだと当初は知らなかったので、なんかどこかで聞いたこと、見たことあるような映画をやるのだな、という漠然とした無関心を払拭させたのは、日本の至宝、藤原竜也の存在である。

とにかく私は、藤原竜也が好きだ。

ビジュアルや演技力は申し分ない。往年の美少女タレント一色紗英と見紛う可愛らしいお顔立ち、美輪明宏と二大巨塔と言ってよい魅惑のビブラートボイス。しかし、そんな事よりも何よりも

「お、俺は死ぬのかぁ〜っ?!」「床が、キンキンに冷えてやがる!!」

藤原竜也の存在は、一俳優の枠を超え、もはや、プロの絶叫家として目が離せない。

ところが、そんな藤原竜也を満喫する以上に「22年目の告白」の作品としての出来が、思いのほか良かった。既視感は納得、韓国映画のリメイクだと知り、私が感心したプロットの面白さは、オリジナル由来なのか確認したくなった。

この二つの作品において、私がとくに気に入っているのは、オリジナルとリメイクの棲み分けが上手く出来ている点だ。

オリジナルの韓国作品は、まるで香港映画のようにエンタメ性が高くアクション満載で、リメイクの日本作品は韓国映画のような重厚なドラマに大きく舵をきっているところが、とても興味深い。

「殺人の告白」が悲劇の未解決事件をベースにしているにもかかわらず、ひんしゅくを買いかねないほど、軽いタッチの作風に振り切ったのは、同じ事件を基にした、2003年の「殺人の追憶」(ポン・ジュノ監督作品)の存在が大きいのではと想像している。

殺人の追憶」は、より未解決の部分のリアルさを描いた、それこそ重厚でシリアスなドラマで、実に素晴らしい作品だ。

映画祭などの賞レース向きの「殺人の追憶」に対して、本作「殺人の告白」は完全に大衆向けの商業作品であって、その意味合いでは大きく成功していると思う。

藤原竜也一色紗英的ラブリーフェイスも良いが、パク・シフのディーン・フジオカと若かりし頃の中井貴一を足して二で割ったようなクールビューティーも悪くない。パク・シフは絶叫してくれないが、代わりに物語全体がトゥーマッチで、サモ・ハン・キンポーの出てきそうなアクションを楽しめる。

悪くない、悪くない。オリジナルとリメイクと、どちらも違う良さがあり楽しめる。

ただ(作品とは無関係だが)残念なのは、この二作品とは違い「酒鬼薔薇事件」の告白本の出版は、フィクションでも何でもない。フィクションで描かれたとおりに(映画では、それを逆手に利用しているのだが)マスコミや大衆は、その内容とは無関係に、告白本へ過剰に興味を示してしまった。

何かこう、残念な現実を見せつけられてモヤモヤしてしまうけど、フィクションの風刺の切り口が、それだけ見事だとも言える。

外国映画のリメイクは、俳優と言語が違うだけで、ほぼほぼ同じ作りのものも沢山あるが、本作のリメイクについては、アレンジの仕方が丁寧でかつ違った毛色の作風に仕上がっているので、機会があれば二作品とも鑑賞し、ぜひ比べてみて欲しい。

さて、今回の映画には全く関係ないことだが、藤原竜也さんは「床がキンキン」と言ったことはないらしい。モノマネではなく、本人が言ってたような記憶があるのになぁ。残念。