映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

上級者のこなれた抜け感

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カフェ・ソサエティ

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

1930年代のハリウッド。その街は映画関係者のみならず、あらゆる種類の成功者と、成功を夢見る者で活気に満ちていた。

まだ夢見る側にいるニューヨーク出身の青年ボビーは、業界大手エージェントとして成功している叔父の紹介で、美しい女性ヴォニーと出会う。

アカデミー賞史上最多の24回ノミネート記録を誇るウディ・アレンが、片目をつぶっていても撮れるであろう、お得意のロマンチック・コメディ。

わたくし的見解

前回ご紹介したケン・ローチ監督に負けず劣らずの御老体、ウディ・アレン。彼くらいになると、もう息をするように脚本を書き上げ、ルーティンワークをこなすごとく、年に一本かるーく映画を撮ってしまう。

毎回似たような話やないかい、と突っ込むのもかえって野暮。近頃、性別を問わずファッション誌で多用されるワード「こなれ感」が、見事に映画として具現化したのがウディ・アレンの作品ですから、確かに「こなれ」てるのは大層お洒落であると実感しました。

ニューヨークを愛するあまり、9.11以降しばらくしてニューヨークを離れ、ロンドンを拠点に映画制作するようになったウディ・アレン

映画人のくせにハリウッドにさえ滅多に足を運ばず、ニューヨークから出ないことで知られてきたウディ・アレンですが、いったんヨーローッパまで行ってしまったら、きっと案外楽しかったんでしょうね。ちょっと古めかしい欧州の雰囲気も、彼の近頃の気分にマッチしたに違いありません。

とはいえ、ヨーロッパもだいぶ満喫できたしと思ってか思わずか、2013年の「ブルージャスミン」あたりから、作品の舞台を再びアメリカへと戻しつつあります。

今回の作品も物語の前半はロサンゼルス、後半はニューヨークを舞台に展開します。主人公はニューヨークの下町ブロンクス出身の青年で、言わずもがな当然ユダヤ人です。

演じるジェシー・アイゼンバーグは比較的小柄なこともあり、かつて自身で主演していた頃のウディ・アレンを代替するような役回り。気の利いた会話と楽しい人柄で、正直パッとしない外見ながら、最終的には美女を魅了するタイプです。

駆け出しの若者だったロサンゼルス時代も、成功者として地位を得たニューヨークでも、虚飾に満ちた社交界(カフェ・ソサエティ)のなか、一歩引いた目線で人々を観察し、人間あるいは人生を悟る主人公。

ニューヨークで成功した後、もう一人の美しいヴェロニカと出会い妻にすることが叶いますが、かつてロサンゼルスで恋をしたヴェロニカ(ヴォニー)と再会し心が揺れます。

すべてが大方の予想どおり進む物語ですし、それについても観に行く前からだいたい想像できていて、しかも結果なにひとつ裏切られる展開はない。

では一体この映画は何なんだ? と問われれば、オシャレ上級者の「こなれ感」や「抜け感」を楽しむ映画と答える他ありません。

ヒロインのヴォニーが主人公を「ヘッドライトに照らされて怯えた鹿みたいでスイート」と評し、上手いこと言いおるなと感心しつつも、考えてみればウディ・アレンジェシー・アイゼンバーグを見てそう思っただけに違いなく、結局ウディ・アレンが好きか嫌いかだけに、作品の評価は集約されてしまうのが厳然たる事実です。

好きな人にとっては、今回の作品もジューイッシュ(ユダヤ教ジョークが冴え渡り、人生のほろ苦さがサラリと描かれ、みごと期待に応える出来と思われます。

奇遇にも(現代の)ハリウッドを舞台にしたストーリーを要約すれば、身も蓋もない「ラ・ラ・ランド」同様、確かに幸せなのに、あり得たかも知れないもう一つの未来(人生)に思いを馳せ遠くを見るラストシーンまで、何もかも想定内におさまる。

ある種の映画のお手本のような作品。風薫る5月に、ちょっとお勧めしたくなる軽やかさです。

ちなみに、ジェシー・アイゼンバーグは猫背で何を着ても野暮ったいですが、ヴェロニカ、クリステン・スチュワートブレイク・ライブリーの二人は、本人たちの輝きもさることながら、CHANELの衣装とジュエリーによって、まさにゴージャス。

ファービュラス。決して会話のみならず、目に見えて実際オシャレ映画であることは間違いありません。