映画ザビエル

時間を費やす価値のある映画をご紹介します。

あれは地球を救う。といふ話

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散歩する侵略者

映画情報

だいたいこんな話(作品概要)

数日間の行方不明の後に戻ってきた加瀬真治は、記憶を失い以前とはまるで別人。妻、鳴海の心配をよそに、散歩にばかり出かける真治。

問い詰めると、自分は地球を侵略するために来た宇宙人なのだと言う。真治の体を乗っ取り、地球人の概念を集めているのだと。

すでに夫婦が不仲だったことが幸いしたのか、たとえ夫が「侵略者」によって、ほとんど支配されたのだと知っても、再び夫婦としてやり直そうと奮闘する鳴海。前川知大主催、劇団イキウメの人気作品を映画化。

わたくし的見解

6月にご紹介した「美しい星」同様に、ワレワレハ宇宙人ダ、的な類のものは取扱いに大変注意を払う必要はあれど、あえて今回も取り上げてみました。

「美しい星」は興行的にきっと難しいに違いないと散々のたまいましたが、こちらの「散歩する侵略者」の方が、まだ広く一般に受け入れられそうな作品だけに、劇場での上映期間が驚くほど短かったことを残念に思います。

この作品の評価ポイントは、「宇宙人による侵略」がテーマではないというところです。そんなものを邦画で取扱ったら大火傷してしまいます。

そんなもの(って、とてつもなく酷いものみたいですが)は、天下のハリウッドに丸っとお任せしておけば良いのです。

宇宙人による侵略、みたいな非日常を巧みに利用して、ごくありきたりでフツーな地球人を描いてみせる。これが邦画(や日本の演劇)のあり方だと大胆にも言い切ってみようかなぁ。どうしようかなぁ。あんまり自信ないけど、とりあえずそういうことに。

映画の中でとても興味深いのが、侵略の準備として人間から概念を奪うという行為。これもとどのつまり、私たち地球人とは何なのか、を映画鑑賞者が改めて意識するために施された演出です。

あまりにも日常的過ぎて意識されない、あらゆること。「家族」とか「仕事」などについて、人間に具体的なイメージ(概念)を浮かべるよう指示し、それを奪う侵略者。奪われた概念は、その人間から抜け落ちてしまいます。

この過程の見せ方は、CG不要。演出の巧みさが際立ちます。逆に、CGに甘んじる迫力のスペクタクル演出は、すでに申し上げたとおりハリウッドの足元にも及ばず、やはり残念な出来映えです。

劇中、ほんの短い時間なので見て見ぬふりできる範囲でしょう。あるいは、意外と健闘していると捉えることも出来るかも知れません。

代わりと言ってはなんですが、ぜひ注目して頂きたいのが、綺麗じゃないヒロインです。いや、綺麗なんです。今まで長澤まさみさんが、綺麗じゃなかった事など無いのですが、わたくしはこの女優さんの、綺麗じゃない顔も見せられるところが好きでして。

やや野暮ったい服装や髪型をしてみても、所詮ポテンシャルが違いますので、どの道フツーには見えない綺麗な人なのですが、映画序盤に見せる、夫を疎ましく思う妻の鬼の形相が素晴らしく、こういう顔の出来る長澤さんを大変信頼しています。

主役をはれる同年代の女優さんの中でも、ピカイチの演技力に、いつも唸り思わず拍手したくなります。

そして、松田龍平さんの宇宙人っぷり。外見は元の夫のままで、中身だけ宇宙人に乗っ取られているはずなのですが、宇宙人も乗っ取る相手を見た目で選んだのでしょうか。すげぇ宇宙人ぽくて笑ってしまう。笑ってしまうのに、妻と一緒にどんどん、この人が愛おしく思えてくる見事な存在感です。

それこそハリウッド映画、とは言えティム・バートン監督作品なので少々メジャー作品からは逸れますが「マーズ・アタック!」なる映画では、圧倒的な武力を持つ宇宙人に対抗できた唯一の武器が、音楽であったという拍子抜けのオチがあります。

しかし実際、未知なるものに地球的最強の武器が通用するとは限らないもの。案外、塩とか掛けたら勝てるかも。「散歩する侵略者」でも、思わぬものが地球を救う訳ですが。これって絶対、このオチ、あのフレーズありきで作られた物語だと思うのです。

夏の終わりに行われる、黄色いTシャツのチャリティー番組のあれ。「そんな馬鹿な」のオチも、やはり主演女優の力量で思いのほか悪くない収まりを見せていると、わたくしには思えてなりません。

愛だろっ、愛。オールユーニードイズラブなんですよ、世界って結局。